"脚線美の誘惑"

この度、「まぐまぐプレミアム」より新作メールマガジンを発行することになりました。

「終わらない夏」をテーマとした九篇の物語からなる小説集です。
『夏少女』『エトランゼ』『脚線美の誘惑』『ガール・イン・ザ・ボックス』『夏への扉』『DREAMING GIRL』『黄昏で見えない』『静かにきたソリチュード』『海を見ていた午後』
公開作品のアップグレードヴァージョン、未公開作品を発行します。

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脚線美の誘惑                                        サンプル版
                             
                                                  麗澤檸檬 
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【SEA BREEZE の梗概(シノプシス) 】


その埠頭のカフェには  Lucy in the Sky with Diamonds 
が程好い音量で流れていた。
夏の午後、ぼくと彼女はあまりの暑さにそのカフェに逃げ込んだ。
お客も疎らな店内は冷房が効いていて涼しかった。


「この曲『アイ・アム・サム』で使われていたわよね。
ダコタ・ファニングが可愛かった」
「うん、ショーン・ペンもいい味出してたよね」
ぼくはハーブテイストのアイスティーを飲んだ。
「ところで、小説を書いたんだ。そこで、ペンネームを考えている
んだよ」
「どんな小説?」
「ロマンス」
「ありきたりなペンネームはつまらないわね。
Fantasy  がいいんじゃない?」
彼女はアイスコーヒーにミルクを注ぎ足しながら言った。
「どうしてさ」
「六本木の帝王だったんでしょ?」
「大昔に仲間とつるんで遊んでいただけだよ」
「私のことを書いてくれた?」
「ヒロインのキャラクターに使わせてもらったよ」


ぼくと彼女は居心地の良さから随分長居をしてしまった。
外に出ると、午後の日差しは大きく西に傾いていた。
SEA BREEZE が強く香った。潮の香りには晩夏の気配が濃厚だった。

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夏少女


 「エリー!」
 彼がソファーから立ち上がった次の瞬間、彼女が飛び込んで来た。二人は深
く抱き合った。
 「逃げて来ちゃった……」
 「逃げて来ちゃったって、大丈夫なのか?」
 「大丈夫じゃない……」
 彼女は小さく舌を出した。
 「もう、帰るところがないの。かくまってくれる?」
 二人はレイの車に乗り込んだ。
 「まるで逃避行ね」
 レイは嬉しそうにはしゃいだ。都心の拓海のアパートに向かった。
 「いつものことだけれど、君には驚かされるよ」
 「でも、嬉しかったんでしょ?」
 エリーが悪戯っぽく聞いた。
 「悪い気はしない」
 彼は素っ気なく応えた。
 「これからどうするつもり?」
 レイがハンドルを握りながら聞いた。
 「ほとぼりが醒めるまで俺のアパートで暮らすさ」
 「絵梨ちゃんは?」
 エリーは少し考えてから次のように言った。
 「もう、家には帰れないと思うの。少しだけれど貯金もあるし、親に頼らな
いで生きる方法を考えてみる」
 「責任重大よ!この色男!」
 レイは拓海に向かって大声で言った。
 「ちょっと立ち入ったことを聞いてもいいかな?」
 拓海がエリーに聞いた。
 「何?」
 「ちなみに貯金っていくらぐらい?」
 「私名義の口座に五千万くらい」
 「……」

 翌日、休日ということもあって二人は昼まで寝ていた。先に目を覚ましたの
は拓海だった。カーテンの隙間から初夏の陽光が射し込んでいた。エアコンも
扇風機もない狭いアパートは既に熱気が充満していた。喉が渇いたので、水道
の蛇口からじかに水を飲んだ。あまりに暑いので、長めの髪に水道の蛇口から
まんべんなく水をかけ、タオルであらまし拭った。彼は見るともなしにエリー
の寝姿を見た。彼女は彼のトランクスとTシャツを着て、お腹を出して熟睡し
ていた。長い手脚が美しかった。彼は苦笑すると、彼女を起こさないように気
をつけて、狭いベランダに出た。
 煙草を取り出すとオイルライターで火を点けた。彼は時間をかけて煙草を喫
った。買い物に行かなければ朝食がないなどと考えていると、エリーが起きる
気配がした。
 「おはよう!」
 彼女はベランダで煙草を喫っている彼を見つけて笑った。
 「もう、エアコンがないと暑いわね」
 「おはよ!買い物に行かないと朝飯もない」
 彼が苦笑した。
 「冷蔵庫がないから仕方ないじゃない。お腹空いたから、今朝だけ特別。何
か食べに行こう!」
 彼女は無邪気に言った。
 「OK!」
 「お化粧するからちょっと待っていて!」
 「化粧なんかいいよ」
 「すっぴん美人?」
 「美人、美人」
 「おだてても何も出ないわよ!」
 「期待してないからいいよ」
 二人で近くのファミリーレストランに出かけた。休日のレストランは学生街
にもかかわらず近所の親子連れで混んでいた。彼女が禁煙席がいいと言うので、
待つと五分もしないで席に座れた。注文を決めて待っていたが、ウェイトレス
がなかなか注文を取りに来ないので、彼女はポーチから名刺の束を取り出すと
彼に見せた。
 「これ、何だと思う?」
 「名刺の束だろ?」
 「ちょっと見てよ」
 彼は興味がなさそうに、名刺を眺めた。
 「よくわからないけど、芸能関係かなあ……。芸能人の事務所っぽいのも
ある……。これ何?」
 「大学に入学してから私にアプローチしてきたスカウトマンの名刺よ」
 「すごいなあ、百枚以上ある……。これ、有名なモデル事務所だろ。前に
 姉貴の週刊誌を読んだとき、名前を見たことがある」
 「そうね、それは割合有名かも……」
 「こういうスカウトマンってさ、どういう所で声をかけて来るの?」
 「山手線や地下鉄の駅とか、大学の正門前とか、青山や表参道なんかも多い
わ」
 「恥ずかしくないんだろうか?」
 「声をかけるのが仕事だから、堂々としているわよ。スーツ着ていて紳士的
だし」
 ウェイトレスが注文を取りに来たので、若鶏のから揚げのランチを頼み、彼
女は話を続けた。
 「それで、こうなったからっていうわけでもないんだけれど、モデルのオー
デションを受けてみようかなって思うの」
 彼は煙草を胸ポケットから取り出したが、禁煙席なのを思い出してすぐに仕
舞い込んだ。
 「俺はそういう世界ってよくわからないなあ……。騙されてお金を取られ
るようなことはないの?」
 「取られるお金が無いから大丈夫よ」
 「そりゃあそうだ」
 彼女は続けて言った。
 「いつでも連絡してくださいっていう所ばかりだから、大学の図書館のイン
ターネットで調べて、良さそうな所に連絡してみる」
 「俺は水商売っぽくて、あまり好きじゃないけれど、まあ、やってごらんよ」
 「うまくいったら、拓海にヒモの生活させてあげるね」
 「俺はヤクザじゃないんだぜ」
 彼はむっとして言った。
 「冗談よ、すぐ怒るのね。私、恋人ができたら一度言ってみたかったの。私
は拓海の情婦ですって」
 彼女は笑いながら言った。
 「やれやれ……」
 「いつものことだけれど、君には驚かされるよ」
 彼女は彼と一緒に言った。
 「やっと馴染んできたじゃないか……」
 彼は静かに言った。

 彼女は週明けに数社のモデル事務所に電話をかけ、授業の合間をぬってその
週のうちに全ての事務所に面接に行った。運良く重なった梅雨の晴れ間の週末
には、拓海の仲間たちのグループで車数台に分乗して千葉の外房に出かけて行
き、波乗りを楽しんだ。エリーは女性のボードを借りて、拓海とライドした。
 そのような生活のサイクルができてまもなく、エリーの雑誌モデルデビュー
が決まった。
 譲とレイが拓海のアパートにお祝いに来てくれた。すき焼きパーティーが始
まり、宴会は深夜まで続いた。譲とレイはそのまま泊まった。

 太平洋高気圧が日本列島を覆い、気象庁から梅雨明け宣言が出された七月二
十日。エリーの特大写真が大手ファッション雑誌広告として電車の中吊り広告
を飾った。その日、午前九時に既に二十五度あった気温はぐんぐん上がり、正
午過ぎには三十二度を超えた。彼女のキャッチ・コピーは「高気圧ガール 日
本列島占拠!」だった。その日を境として、二人の生活は変わらざるをえなく
なった。それは束の間の二人だけの気儘な生活に別れを告げて、新しい生活に
向かう門出の日でもあった。

 雑誌は即日完売し、増刷を繰り返した。エリーに雑誌モデル以外の新しい仕
事の提案が次々と舞い込んだ。テレビのCM出演、各種イベント出演、グラビ
アタレントや女優への転進の打診などが主だった。彼女は雑誌モデル以外の仕
事の提案は、所属事務所の担当者と話し合い、すべて一旦保留にした。

 お盆を過ぎたある日、彼女に初めての給与が支給された。口座に振り込まれ
た金額を見て彼女は少なからず驚いた。夏休みを利用して、印刷会社の臨時の
アルバイト先から汗まみれで帰宅した拓海に、彼女ははしゃいで言った。
 「はじめてお給料が出たわよ」
 「すごいじゃないか、いくら出たの?」
 「通帳を見て」
 彼は金額を見た。
 「まじめに働く意欲が無くなるなあ……。俺のバイト代の五倍はある……」
 「新しいお仕事の依頼も来ているの」
 「どんな仕事?」
 「テレビのコマーシャルとか女優になりませんか、なんてものもある」
 彼女は早口で言った。
 「それで、どうするの?」
 彼はゆっくり聞いた。
 「どうしたらいいと思う?」
 「エリーはどうしたいのさ?」
 彼女は少し考えてから言った。
 「私は親に頼らずに生きていければいいと思って始めただけだから、有名に
なりたいとか、お金持ちになりたいとか思っているわけじゃないの」
 彼女はゆっくり続けた。
 「だから、学費や衣食住を賄えるだけのお金が手に入れば、それで十分なの
よ」
 「そのお金が手に入ったわけだ」
 彼は注意深く言った。
 「仕事が軌道に乗ったら、君はここを出た方がいい」
 「どうして?」
 「どうしてって、このまま二人でここに暮らしたいと思っているのかい?」
 「いけないかしら?」
 「俺はいやだ。縛られて動けなくなる」
 「私のことを愛してないの?」
 「愛しているに決まっているだろう!それとこれとは別問題だ」
 彼女の顔に淡い微笑が広がった。
 「変なの!何よ、シリアスな顔しちゃって……。私は出て行けって言われて
もどこにも行かない。拓海と一緒にいられなきゃ生きている意味がないもの…
…」
 彼は少し考えてからゆっくり言った。
 「君は俺と結婚したいと思っているのかい?」
 「ゆくゆくはね……、当然じゃない!お嫁に行けない身体にしたくせに。責
任取って!」
 彼女は半ばジョークが入った物言いで言った。
 「俺が何をしたって言うんだ?」
 「寝たじゃない!私は初めてだったんだから……」
 「そんなの握手をしたようなものじゃないか」
 「最低!そんな風に考えているの?」
 「これだから、お嬢様育ちは困る。俺たちはまだ十八歳だろう?何回か寝た
からって、結婚まで考えるのかい?」
 「少なくとも私の考えはそうなの。それに、何回かじゃないじゃない!もう
数え切れないほどよ!」
 「やれやれ」
 彼は思わずため息をついた。
 「それから」
 彼女は言いにくそうに続けた。
 「ついさっき、実家から携帯に連絡があったの。近々に父がここに来ると思
う」
 「何をしに?」
 彼は呆然と言った。
 「あなたに会いたいと言っているわ」
 「また、引き離そうとするんだろうか?」
 「それならとっくにそうしていると思うわ」
 彼女は静かに言った。
 「だから、私が繋いだ手を離さないで!私を愛しているなら、いつまでも一
緒にいる気持ちをしっかり持って!」
 「わかったよ……」
 彼は力無く言った。

 翌日、気温が三十五度を優に越える快晴の午後。拓海がアルバイトから帰る
と、アパートの前に黒塗りのメルセデスが横付けされていた。アイドリングし
た車内では運転手が居眠りをしていた。彼は直感でエリーの父が来たことを悟
った。部屋に入ると、黒い端整なスーツを着た年配の男性が佇み、傍らにエリ
ーが正座していた。
 「おかえりなさい」
 彼女が明るい声で言った。
 「ただいま」
 「私の父です」
 彼女は彼に紹介した。
 「はじめまして、神崎拓海です」
 拓海はエリーの父親に挨拶した。汗まみれで短パンにTシャツという格好だ
った。いつもは蒸しかえるような部屋が涼しかった。気が付くとエアコンがセ
ットされていた。そればかりか、部屋の隅には小ぶりの冷蔵庫まで置いてあっ
た。
 「石原です。君が神埼君か、いい面構えをしている……。これなら娘が惚れ
るのも無理はない」
 エリーの父親は四十代後半くらいだろうか、長めの髪は黒々としており、精
悍で若々しく彼女の歳の離れた兄のようにさえ感じられた。
 「まあ、立ち話もなんだから、座ろうか」
 石原は静かに座り、胡坐をかいた。拓海はエリーの隣に正座した。
 「私の娘に対する親心は理解してもらえるだろうか?」
 彼はゆっくりと話し始めた。
 「世間知らずの娘が大学入学を果たしたかと思ったら、ボーイフレンドがで
きたと言う。週末は外泊して帰って来ない。そればかりか、平日すら帰らない
日もあった。親として心配するのは当然だとは思わないかね?」
 「ご心配はごもっともだと思います」
 拓海は注意深く応えた。
 「娘は知ってのとおりまだ十八歳の世間知らずだ。君は同年代だから、そん
なに感じないかもしれないが、まだ子供なんだ。どこの馬の骨ともわからん男
に、あっさりとくれてやるわけにはいかん。そこで、私は娘をロンドンの知人
が経営する大学の寄宿舎に移そうと考えた。ところが、今まで私に楯突いたこ
とのない娘が、初めて自分の意思で君のところへ逃げ込んだ。逃げ込んだばか
りか、自立して生活しようとまで考えて行動に移した」
 彼はそこまで話すと上着を脱ぎ、冷蔵庫から缶ビールを二本取り出すと、一
本を拓海に渡した。
 「暑いから、一緒に一杯飲もう」
 彼はタイを緩めて、缶ビールのプルトップを引くと一口飲んだ。拓海もビー
ルを飲んだ。初めて飲んだわけではないけれど、苦い海水のような味がして、
とてもうまいとは思えなかった。石原は満足げに目を細め、ビールを飲みなが
らしばらく二人を見ていたが、再び話し始めた。
 「私は娘の意思を尊重しようと思う。ここで反対しても、絵梨の気持ちが変
わらなければ無意味だと思うからね。そこで、君の気持ちを聞きたいと思って、
今日はここまで来たんだが、君は娘との関係をどのように考えているのかね?」
 「私にとって、お嬢さんは大切な宝物のように思っています」
 拓海は緊張しながら、ゆっくりと続けた。
 「まだ二人とも学生の身ですので、学業を本分としながら、二人で切磋琢磨
して自立した生活を送って行けたらと考えています。お互いにまだ若いので、
先のことは正直言って明言できませんが、同じベクトルに向かって歩んで行け
たら幸せになれると考えています」
 石原はそれからしばらく拓海の考える今後の話を聞き、娘が後悔するような
ことだけはしないで欲しいと言って帰って行った。

 それから数日後、エリーは父親の許可を得て、オファーのあったテレビのC
M出演の話を決めた。
拓海は彼女に頼み込んで、夏休みの残りにサーフィンを目的とした一週間の一
人旅に出かけた。彼女は一緒に行きたいと駄々をこねたが、彼は英気を養うの
だと一人で行くことを主張した。最低限の必要なものだけをバックパックに背
負い、ボードを持って海に向かう各駅停車に乗った。
 真夏の見知らぬ町の海岸で、いい波を見つけてはライドした。強い陽光を浴
びて、波と戯れるだけで至福の時間となった。日が暮れると、コンビニで弁当
を買い海岸端で食べ、寝袋に包まって寝た。雨が降らなかったのが幸運だった。
 彼は数日間で真っ黒に日焼けした。次のサーフスポットへ向かうために通り
がかった町の駅前で、彼はテレビの大型スクリーンを何気なく見た。化粧品の
CMで懐かしいエリーの顔がフルスクリーンで映し出されていた。
 彼女は美しく微笑みかけていた。彼女は彼だけに無言で話しかけているよう
だった。
 「早く元気で帰って来てね」と。

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脚線美の誘惑                                       サンプル版
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発行元:儲かる稲妻ライティング塾 http://www.writingkouza.com/
著者:麗澤檸檬 info@writingkouza.com
発行周期:月刊毎月10日
配信登録、解除:http://premium.mag2.com/mmf/P0/00/75/P0007576.html
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2008年12月20日

今日の一言: 若きサーファーの究極の望み、“エンドレス サマー”を実現する唯一の方法は、夏を追いかけて世界中を巡ること―心に刻まれた夏に終りはない。